「飴川さん。キスしよう?」
雨上がりの帰り道。
高架下からすぐの公園まで来たところで、綿貫さんが、内緒話をするようにこう言った。
「うん」
と、一も二もなく頷いたが、綿貫さんとキスがしたいせいで、あまりにも素直すぎる自分は、なんだかまぬけだ。
綿貫さんに恋をしてから、わたしの心はずっとふわふわ、きらきらしている。
少し前までのわたしは、外でキスをするなんて、一生ありえないだろうという毎日を送っていた。
人生の暗い季節をトンネルに例えるなら、わたしは生涯そこから出られない。
ずっとじめじめとした光のささない世界で、一人孤独に生きていくのだと、そう思っていた。
にもかかわらず、今のわたしの隣には、こんなにかわいい綿貫さんがいる。
もしかしたら夢なのかもしれないが、これは思ったよりも長く続いている夢だ。
ならばこのまま夢の世界にいたいと、わたしは思っている。
「目を閉じて」
綿貫さんがそう言い、わたしが従う前には、もう唇が触れた。
綿貫さんはこうなのだ。
わたしが不意を打たれてドキドキして、息をのみ、慌てて、恥ずかしがる様を見るのが好きなのだ。
それをわかっていて従う、わたしもわたしだ。
わたしはこの人に翻弄されていたいのだ。
この新しい世界に、ずっと驚いていたいのだ。
「飴川さんはかわいいね」
じんわり滲む視界で、綿貫さんが微笑んだ。
綿貫さんのせいで甘い涙に濡れた世界は、淡くゆるやかにきらめいている。
ありふれた児童公園まで特別な世界に変えて、わたしの呼吸さえ奪っていく。
この恋はわたあめだ。
唇で触れると、とろけるように柔らかくて、舌でそっと舐めとった途端、甘ったるく、じゅわっと縮む。
「好き」
あぁ、ずっと、この世界にいられますように。
「わたしもです……」
息をするのもやっとなほど、胸いっぱいなまま。
わたしは勇気を出して、そっと綿貫さんの手を握った。
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■表紙素材:ヒアルロン酸 様
■お題:「フリーワンライ」第119回より
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